駐車場を後に通りへと足を踏み出す。
そこには人、人、人。所狭しと展示される作品達。
テンションが一気に上がる。この感じ期待せずにはいられない。
会場を見渡す。思っていたよりも開放感がある。
今まで行ったどのマーケットよりも大きそうだ。
”これがインディアン・マーケットか..."
僕はあちこちに目を走らせながら歩き始めた。
たくさんの人の興奮と熱気が体中に伝わってくる。
自然と早足になっている事に気付く。
”落ち着け、先は長い”
自分にそう言い聞かせた。
僕は※パット、クリス、マーラを探す事にした。
パットとクリスは兄弟。マーラはパットのフィアンセだ。
今年の3月にはじめて会ったのだがその日すぐに仲良くなる事が出来た。
家にまで出向きご飯もご馳走になった。
とにかく、この3人自然体で気取りが無い。
仕事以上のフレンドリーな関係を築けるだろうなと直感的に思った。
早速、フリーペーパーで場所を確認しブースへと向かった。
すぐにブースは発見する事は出来たがそこはすでに黒山の人だかり。
割り込めそうな雰囲気ではなかったがちらっと隙間から顔を出すことが出来た。
そこには来客の対応に追われるパットとマーラの姿があった。
”元気そうだ”たくさんの人と笑顔で会話を楽しんでいる。
僕は手を振った。二人は僕に気が付いてくれた。
久しぶりにあったパットとマーラは満面の笑みで僕をハグしてくれた。
慣れないハグは気恥しいが会うだけで喜んでくれる友達はそう多くはない。
ニューメキシコ州Paguate。彼はクォーターです。
1/4はLaguna pueblo。1/4はアパッチ。1/2は白人です。
彼のジュエリーの根底は伝統的なインディアンジュエリーである銀や銅を使用した物から始まります。しかし、作り続けていくうちに彼はありきたりな材料、技術に物足りなさを感じ始めます。市場は伝統的なものが溢れていて、何より自分の感覚で納得する物が作りたいという欲求が強くなっていきます。彼はシルバースミスであるグレッグ・ルイスのもとで勉強しその後、南メソジスト大学(ダラス)で機械工学を研究します。彼は研究に没頭します。自分の知らない世界と持っている技術との融合により素晴らしいものが出来るという確信が強くなっていきました。その大学で得た機械装置の技術、材料の知識などが現在のスタイルの基盤となります。
彼の作品は今までインディアンジュエリーでは使われる事が無かった材料を数多く使用します。アルミニウム、ジルコニウム、カーボンファイバー、スティングレイ(エイ革)などです。革新的な材料とそれを凌駕する最先端技術によりPat Pruittの作品は生み出されます。
彼はクォーターです。
その柔軟な感性と探究心そして信念が”NEXT GENERATION”新しいインディアンジュエリーの扉を開きます。彼はPaguateを愛し、そこに尚、住み続けながら製作を続けています。それこそがインディアンジュエラーとしての彼の誇りです。
彼は自らをSilversmithとは言いません。彼は”Metalsmith”です。
ーーーーー”この感じやっぱりいいな”
そんな中、ニューエラを後ろ向きに被った高校生くらいの男の子がパットにガツガツと話しかけてきた。”これは何の素材?””これはいくら?””これは安くならない?”かなり欲しいのだろう。次から次へと質問を投げかける。気持ちはわかる。だが、高校生が買える値段ではない。彼もわかっているのだ。御座候を焼いている鉄板を見るかの様に真剣な眼差しでショーケースの中を見つめるほかないことを。
しばらくすると別の男が顔をのぞかせた。変身前のスーパーマンのような風貌の男だ。見た感じは僕よりも年下だろう。ピストバイクにでっかいヘッドフォンを首に付けていた。ピタッと横分けに眼鏡を掛けていたが少しチャラい印象を受ける。”それ見せて”と軽い感じでパットに話しかけた。さっきまで僕が見ていたお気に入りのバングルだ。手首につけ始める。
”あれめっちゃかっこええよな。人がつけてるの見るとなおさらええわ。でも高いねんな...”と心の中で思う。男はそのバングルを外し”そっちのも見せて”と先程よりも少しだけ安いバングルをつけた。
”まあまあそっちやろな。それでも結構するで。いけるか?”男はそれもまた外した。”それも試していい?”目移りしたのかボロタイにまで手をつけてみる。
”全然ちがうものですやん。それ、いつ付けんの?”大きなお世話な感想が心の中で次から次へと溢れ出す。
そして、男は言った。
”Everything"ーーーーー
そう。MISIA以来の"エブリシング"と。
その時間、約3分。
$6,000-ほどの買い物を心斎橋食堂でおかずを選んでるかの如く決めてしまった。
それもメインばかりを狙い撃ちにして。
”サバ煮に肉じゃがに唐揚げだ。完全なカロリーオーバーだ。メタボになってしまうぞ。小鉢も取れ 小鉢も”
きゅうりの酢の物でさえ選んでない僕を差し置いてマンオブスティールはどんどんとトレイにおかずをおいていく。
”こいつマジか。IT関係か.....絶対、IT関係やわ!”
そんな妄想までしてしまう。
そして、この会場にいる全ての人が富豪に見えてくる。
あのよぼよぼのおじいちゃんだってどこかの大企業の会長だ。
この聞き分けの悪そうな子供だって地主の息子だ。
きっとそうだ。そうに決まっている。
この会場で所得が低いのはこのオレとあのニューエラボーイくらいだ。
そのボーイもその様子を見てスーッと人ごみへと消えていった。
僕はというと強ばった顔で”Good Choice!"というのが精一杯だった。
会計を済ませその男は店を後にした。
ちらっとパットと目があう。
パットは”オレやるやろ”という顔で少し頷いた。僕は”よかったね”と親指を立てたがパットには申し訳ないがちょっとイラッとした。世界共通でドヤ顔はイラッとくるものなんだと知った。
続く。
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